大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成元年(行ケ)31号 判決 1991年9月30日

石川県能美郡寺井町字吉光ト七八番地

原告

タケダ機械株式会社

右代表者代表取締役

竹田清一

右訴訟代理人弁護士

岩﨑精孝

右訴訟代理人弁理士

磯野道造

渡辺裕一

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 深沢亘

右指定代理人

西村和美

古賀洋之助

後藤晴男

松木禎夫

神奈川県伊勢原市石田二〇〇番地

被告補助参加人

株式会社アマダ

右代表者代表取締役

天田満明

右訴訟代理人弁護士

長谷川純

吉田瑞彦

右訴訟代理人弁理士

三好保男

三好秀和

伊藤正和

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用及び参加によって生じた訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた判決

一  原告

1  特許庁が、同庁昭和五八年審判第一六二七一号事件について、昭和六三年一二月八日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告及び被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)

主文同旨

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「ユニット型プレス機構を併設したコーナーシャーマシン」(当初「コーナーシャーマシン」としたものをこのように補正)とする考案(以下「本願考案」という。)につき、昭和五四年八月二五日、実用新案登録出願をしたところ、昭和五八年五月三一日に拒絶査定を受けたので、同年七月二七日、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第一六二七一号事件として審理した上、昭和六三年一月二〇日出願公告(昭和六三年実用新案出願公告第二二四九号)したが、実用新案登録異議の申立がありさらに審理した結果、昭和六三年一二月八日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成元年一月一八日、原告に送達された。

二  本願考案の要旨

コーナーシャーマシンの上刃を取付けてあるヘッドの背面にラム3を突設すると共に、該コーナーシャーマシンの本体背面にテーブル1を取付け、該テーブル1上に形成した刃台取付溝2内で上記ラム3の下降位置に穿った切屑落孔4上にプレス側の上刃8及び下刃6をユニットとして着脱可能に設置するプレス機構を付設したことを特徴とするユニット型プレス機構を併設したコーナーシャーマシン。(以下本願考案につき、本判決別紙本願考案図面参照。)

三  本件審決の理由の要点

1  本願の出願の日及び本願考案の要旨は一、二項のとおりである。

2  これに対して、審判手続において登録異議申立人株式会社アマダが審判事件甲第一号証として提出した、実公昭五三-二四九三六号公報(本件甲第三号証。以下「第一引用例」という。)には、一側にコーナー用カッターを備えたワークヘッドの他側の突出部にエッジノッチ用カッターを着脱可能に設けると共に、その下部に着脱可能な下型カッターを支えるテーブルを設けたダブルヘッドコーナーシャーマシンが記載されているものと認められ、また、同じく株式会社アマダが審判事件甲第六号証として提出した、特公昭四九-一〇三九四号公報(本件甲第四号証。以下「第二引用例」という。)には、ボルスタの案内溝にパンチとダイを配置したパンチングセットを着脱自在に設けたパンチングプレスが記載され、また第5図にはラム装置と同芯位置に嵌挿されたリングの中心孔と同心にボルスタへ孔を設けたことが図示されている(以下、第一引用例記載のものについて、本判決別紙第一引用例図面、第二引用例記載のものについて、本判決別紙第二引用例図面参照)。

3  そこで、本願考案と第一引用例に記載されたものとを対比すると、第一引用例記載のものの「コーナー用カッター、エッジノッチ用カッター」、「ワークヘッド」、「突出部」、「下型カッター」は、それぞれ本願考案の「上刃」、「ヘッド」、「ラム」、「下刃」に相当し、また、第一引用例記載のもののテーブルで支えられた下型カッターとワークヘッドに設けられたエッジノッチ用カッターとはワークヘッドの駆動により被加工材をプレス作業により加工するものであるから、これらは本願考案のプレス機構に相当すると認められるため、両者は、コーナーシャーマシンの上刃を取付けてあるヘッドの背面にラムを突設すると共に、該コーナーシャーマシンの本体背面にテーブルを取付け、その部分に着脱可能な上刃と下刃とを有するプレス機構を付設したコーナーシャーマシンである点で一致し、次の点で相違する。

(一) 上刃と下刃の着脱手段が、本願考案はテーブル上に形成した刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置しているのに対し、第一引用例に記載のものは、個別的にそれぞれ着脱可能にしている点。

(二) テーブルが、本願考案はラムの加工位置に穿った切屑落孔を有しているのに対し、第一引用例記載のものはそれを有していない点。

4  次に、これらの相違点について検討する。

第二引用例に記載された「ボルスタ」、「案内溝」、「パンチ」、「ダイ」、「パンチングセット」は、それぞれ本願考案の「テーブル」、「刃台取付溝」、「上刃」、「下刃」、「上刃と下刃のユニット」に相当し、また、第二引用例に記載されたリングの中心孔とボルスタの孔はラム装置と同芯であるので、ポンチとダイにより打抜きされた切屑はこれらを通って落ちることは明らかであるから、これらは本願考案の切屑落孔に相当すると認められるので、第二引用例には、テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置すること、及び、ラムの下降位置にリングの中心孔とテーブルの孔からなる切屑落孔を設けることが、それぞれ記載されているものと認められる。

ここで、第二引用例に記載のものは切屑落孔をリングの中心孔とテーブルの孔とで構成しているが、これは打抜きの際に生じる剪断力を受けるために強度を有するリングを用いているのであり、テーブル自体が強度を有している等その必要がない場合はリングは不要でテーブルのみに切屑落孔を設けてもよいことはその記載からみて自明のことである。

とすれば、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものはプレスによる剪断装置としてその軌を一にしているので、第一引用例記載のものにおける上刃と下刃の着脱手段及びテーブルを第二引用例記載のものを転用し、ラムの下降位置に穿った切屑落孔を有するテーブルとすると共にそのテーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置することに当業者が格別の創意を要するとは認められず、しかも、そのように構成したことによる効果も当業者が普通に予測しうる効果を越えるものではない。

5  以上のとおりであるから、本願考案は、第一引用例及び第二引用例に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められ、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない。

四  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、本願考案と第一引用例記載のものとの相違点についての判断において、第二引用例記載のものと本願考案及び第一引用例記載のものとを同質の機械と誤認し(認定判断の誤り第1点)、本願考案の「刃台取付溝内に上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置する」という構成を想到するには格別な創意を要するのに、格別の創意を要するとは認められないと誤認し(認定判断の誤り第2点)、本願考案の奏する特段の効果を誤認看過した(認定判断の誤り第3点)結果、本願考案の進歩性の判断を誤り、本願考案は、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができないと判断したものであるから、違法として取り消されなくてはならない。

なお、前記三(本件審決の理由の要点)2、3並びに同4中、第二引用例に記載された「ボルスタ」、「案内溝」がそれぞれ本願考案の「テーブル」、「刃台取付溝」に相当し、また、第二引用例に記載されたリングの中心孔とボルスタの孔はラム装置と同芯であるので、ポンチとダイにより打抜きされた切屑はこれらを通って落ちることは明らかであるから、これらは本願考案の切屑落孔に相当すると認められること、第二引用例には、ラムの下降位置にリングの中心孔とテーブルの孔からなる切屑落孔を設けることが記載されているものと認められること、第二引用例に記載のものは切屑落孔をリングの中心孔とテーブルの孔とで構成しているが、これは打抜きの際に生じる剪断力を受けるために強度を有するリングを用いているのであることの認定判断は認める。

1  認定判断の誤り第1点

本件審決は、第二引用例記載のものと第一引用例記載のもの及び本願考案とを同質の機械としてとらえ、第二引用例に記載された「パンチ」、「ダイ」、「パンチングセット」がそれぞれ本願考案の「上刃」、「下刃」、「上刃と下刃のユニット」に相当するものとし、第二引用例には「テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置すること」が記載されていると認定し、また、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとはプレスによる剪断装置としてその軌を一にしていると認定している。

しかし、本件審決の右認定はいずれも誤りである。

(一) 第一引用例記載のもの及び本願考案は、ダブルヘッドコーナーシャーマシンである。

コーナーシャーマシンは、加工材の直角状のコーナーを切断するための機械であり、ダブルヘッドコーナーシャーマシンは、右の機能を有する本体の背面で、加工材の辺部を凹形に切断するものである。

本願考案の実用新案出願公告公報中の明細書(以下「本願明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載の内、ポイントをなす上刃と下刃のユニットについては、考案の構成に欠くことができない事項のみをとらえて記載してあるので、補完的に考案の詳細な説明の欄の記載を汲み取って解釈すれば、上刃8は平面方形として上刃台9に取付けてあり、該上刃8が下降して噛み合う下刃6は平面凹形をなしていて、内方一辺の刃面を開放させて下刃台5に設置してあり、上刃8が下刃6の三面の閉鎖されている刃面及び刃面の開放部に挿入されたとき加工材を切断又は打ち抜きする構造の切断器具である(本願考案図面第4図参照)。

また、本願明細書の考案の詳細な説明の欄を斟酌すれば、考案の詳細な説明の欄の、「プレス機構による加工材の央部打ち抜き」(甲第二号証一頁1欄一六行から一七行まで)との記載部分の、「プレス機構」とは押圧機構という意味であり、「央部」とは加工材の面の中央部ではなく、辺の中央部の意味であり、「打ち抜き」とは上刃をラムの押圧力で下刃に噛み合わせて加工材を凹形に切断することを意味している。

即ち、本件で問題となる第一引用例記載のもの及び本願考案の各本体の背面の機械は、加工材の辺部を凹形に切断するための切断装置である。

したがって、加工材を切断する場合、加工材の辺からはみ出して、加工材に当たらない刃の部分があるため、垂直荷重のほか、切断にあたって切断すべき加工材の存在しない辺面部方向に受ける偏荷重に耐えうる構造の刃を備えていなくてはならない。

被告は、実用新案登録請求の範囲の上刃と下刃のユニットは実施例に限定されるものではない旨主張するが、本願考案の上刃8も下刃6も、考案の詳細な説明の欄と実用新案登録請求の範囲の両方において同じ符号を付し、同じ用語を用いているのであり、いずれも同一の構成要件であることを特定しているのであるから、被告の主張は誤りである。

本件審決は、前記三3のとおり、「本願考案と第一引用例に記載されたものとを対比すると、第一引用例記載のものの「コーナー用カッター、エッジノッチ用カッター」、「ワークヘッド」、「突出部」、「下型カッター」は、それぞれ本願考案の「上刃」、「ヘッド」、「ラム」、「下刃」に相当し」と認定しており、本願考案は第一引用例記載のものと同じく加工材の辺を凹形に切断する機械であると認定しているのであり、本願考案の上刃と下刃は加工材の辺ばかりでなく面の中央部をも切断する旨の被告の主張は、本件審決の認定と矛盾しており、且つ、本願考案がダブルヘッドコーナーシャーマシンであること及び本願考案の本体背面における上刃と下刃が加工材の辺以外の板面を切断する技術が開示されていないこと等を看過したものである。

(二) これに対して、第二引用例記載のものは穴明け専用機であり、加工材の面の中央部分を円形に打ち抜くことを目的としているものである。したがって、パンチの全体で加工材を加工するものであるから、単に垂直荷重を加えることにより目的が達成されるものである。

しかし、水平荷重(偏荷重)に耐え得る手段は設けられていないので、加工材の辺を凹形に切断することはできない。即ち、加工材の辺を凹形に切断するには下刃の一辺を開放させた刃物であるべきであり、上刃を下刃の三辺の閉鎖刃面及び一辺の開放部に挿入させる構造のものでなくてはならず、しかも上刃を下刃に挿入したときに下刃の一辺開放部に上刃が横圧を受けて横方向又は水平方向に流れないように、閉鎖されている下刃の三辺の刃面に対し上刃を直角に噛み合わせるための水平荷重に耐え得る手段が設けられていなければならないのである。

(三) したがって、第二引用例に記載された「パンチ」、「ダイ」と本願考案の「上刃」、「下刃」とはその構造が全く異なり、対応させて考えることはできないから、第二引用例にはテーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能にすることが記載されているという審決の認定は誤りである。

(四) また、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとは、右に述べたとおり、同質の機械ではないから、これらはプレスによる剪断装置としてその軌を一にするとした認定も誤りである。

第二引用例には、第一引用例及び本願考案のように加工材の辺部を垂直荷重と偏荷重を得て凹形に切断する技術は開示されてなく、逆に、第一引用例及び本願考案には、第二引用例のように加工材の板面を円形に打抜く技術は開示されていない。

確かに、第二引用例記載のものにおける穴明けは剪断打抜によるものであるから、第二引用例記載のものも第一引用例記載のものも剪断加工装置という上位概念を想定することは可能であるが、それは単なる言葉の遊びにすぎず、機械の本質的機能の差を考慮すれば、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものが軌を一にするとはいえない。

2  認定判断の誤り第2点

本願考案の「刃台取付溝内に上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置する」という構成を想到するには格別の創意を要するものであるにもかかわらず、右の点について当業者が格別の創意を要するとは認められないとした本件審決の判断は誤りである。

(一) 即ち、前記のとおり、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとは全く機械の種類、構造が異なっており、また、第二引用例にはテーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能にすることが記載されているともいえないから、第二引用例記載のものを第一引用例記載のものに転用することはできない。

仮に、第一引用例記載のものに第二引用例記載のものを転用しても、第二引用例記載のパンチ、ダイは前記のとおり偏荷重を考慮していない構造であるので、加工材の辺部を凹形に切断する機械にはならず、本願考案を完成するには、少なくとも次のような、当業者にとって非常に難しい課題を克服しなければならなかったものである。

(1) パンチ装置に垂直荷重を求めると共に、水平荷重(偏荷重)に耐え得る技術手段を講ずること。

(2) 第二引用例記載の上腕部材の丸孔の制約を受けないような上刃とその取付技術を工夫すること。

第二引用例記載のパンチング技術は丸孔の孔内に丸棒状のパンチを貫通保持させるものであることから、おのずと丸孔の大きさ及び丸孔の形状によりパンチの大きさ及び形状が制約を受け、丸孔の大きさ及び形状と異なる大きさ及び形状のパンチを使用できない。

(3) 第二引用例記載のラム装置3の軸芯でパンチ装置25の軸芯を叩く技術によると、ラム装置を上下させるためのシリンダー機構をパンチングプレスの懐ろ部1の上方部内に設けられなければならないが、本願考案のようにラム3内にシリンダー機構を使用しないで加工できる技術を工夫すること。

(4) 第二引用例記載の上腕部材の丸孔にパンチ装置を貫通保持させる技術によると、丸棒状パンチのガイド機構及びパンチの復帰用バネ等をパンチの近傍に施す必要があるので、パンチの取付部の機構が複雑となり、且つ大きくなることから機械全体が大型化、高価格化を招いて、ダブルヘッドコーナーシャーマシンとしては実用に供し得なくなるので、小型で安価な機械にするための工夫をすること。

(5) 第二引用例記載のラム装置の軸芯でパンチ装置の軸芯を叩く技術を第一引用例の装置に転用すると、コの字形で長い寸法のパンチングセットを使うことになるから、第一引用例記載のワークヘッドの前後寸法を長く用いなければならない。しかし、ダブルヘッドコーナーシャーマシンは正面と背面で加工材の隅と辺を切断する機械であるから、ラムの大きさを小さくし、テーブル面を広く用いることが望まれているから、ラムの前後寸法を短くしてラムの下面のどこの面においても上刃を叩ける技術にすること。

(6) 第二引用例記載の上腕部材に取付けてあるパンチ装置によると、加工材に穴明けしたのち、加工材を丸棒状パンチから離脱させる方法は、第二引用例図面第2図から理解できるように、穴明け後、パンチの下端部が上腕部材の下面より丸孔の内部に上動するときに、加工材が上腕部材の下面に当接することによってパンチから離脱する技術になっているが、本願考案のように、上刃を上刃台の下面(外部)に取付ける技術を採用するとすれば、パンチから加工材を抜くための手段を別に講ずること。

(二) 被告は、仮に、第二引用例には、「テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置すること」が記載されているものと解釈することができないとしても、第二引用例のボルスタの案内溝にパンチとダイを配置したパンチングセットを着脱自在に設けるという記載から、ボルスタの案内溝に上下の金型(コーナーシャーマシン用の刃並びにパンチングプレス用のパンチ及びダイの上位概念)をユニットとして着脱可能に設置するという技術思想が開示ないし示唆され、この技術思想は第一引用例記載のものに転用可能である旨主張する。

しかし、第二引用例記載のパンチングセットを第一引用例のものにどのように転用するというのか、転用するとどのような技術思想になるのか、どのような構造になり、どのような加工ができるのか全く不明である。原告は善意をもって転用技術を特定しようと試みても全く特定できない。即ち、転用不能である。

(三) 元来、機械の正面でV形切断を行い背面で凹形切断を行う、いわゆるダブルヘッドコーナーシャーマシンにおいては、第一引用例のように上刃はエッジノッチ用カッターとしてワークヘッドに取り付けられ、下刃は下型カッターとしてテーブルに取り付けられているため、上刃と下刃が切断に当たって正しく噛み合うよう上刃と下刃の設置位置を正確に調整しなくてはならない。これをクリアランスの調整というが、これを行うには相当な経験と技術を要し、熟練した技術者の勘と手腕に頼らざるを得ないばかりか、上刃がワークヘッドに組み付けちれ下刃がテーブルに設けられているため、調整作業を行うスペースが狭くて、しかも手作業を行う方向が上刃と下刃では異なることから調整作業がしにくいという作業環境にある。したがって、その作業を完了するには厄介な手数と相当な時間を要するのが現状であった。

そこで、右欠陥を克服し、作業の効率化を図るためには、クリアランスの調整を不要にする方策を考え出すことが重要であり、かつ解決の極めて困難な技術的課題であった。

(四) 原告は、この課題を解決すべく研究を重ね、多くの技術的困難を克服して上刃と下刃を刃台取付溝内にユニットとして着脱可能に設置するという技術を考案するとともに、これがコーナーシャーマシンとして機能するために上刃と下刃をガイドピンを介してユニットとして形成する構成を採用したのである。上刃と下刃のユニットを右の如く構成すると、ラムで上刃を叩くとき、上刃は垂直荷重と偏荷重を共に体有しているので、加工材の辺部を凹形に切断できる技術になる。

(五) この点について、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「上刃8と下刃6をユニットとして着脱可能に設置」と記載されているが、右ユニットはコーナーシャーマシンとして加工材の辺面を凹形に切断するための切断ユニットであることが当然の前提であるから、本件考案の実用新案出願公告公報(甲第二号証)2欄二四行から3欄一九行まで及び3欄二一行から二五行までに記載された構成を汲みとって、その構成に欠くことのできない事項を記載したものと解するべきである。したがって、本願考案における上刃と下刃のユニットというのは、「下刃台に下刃を収容すると共に上刃台に上刃を螺子を用いて取り付け、下刃台に植設せるガイドピンを上刃台の案内溝に連結せしめることにより、上刃側と下刃側をユニットに形成した」(甲第二号証3欄二一行から二五行まで)という意味に解釈すべきである。

3  認定判断の誤り第3点

本願考案は次のような、当業者が予測できない特段の効果を奏するものであるにもかかわらず、相違点のような構成にしたことによる効果も当業者が普通に予測しうる効果を越えるものではないとした本件審決の判断は誤りである。

即ち、本願考案は、前記のとおり上刃と下刃がユニットとして一体的に組み合わされ、刃台取付溝内において着脱自在に取り付けられていることから、第一に、加工材の切断寸法に応じた刃物の取り換え作業が、ユニットを取り出すことにより簡単にでき、第二に、上刃と下刃がユニットとして形成されているため、前記のとおり上刃と下刃のクリアランスの調整が全く不要となり、作業能率が飛躍的に向上され、第三に、上刃と下刃のユニットはテーブルより分離されているので、ユニット自体が軽量化され手作業でも付け替えが可能となるという特段の効果を奏するものである。

第三  請求の原因に対する被告及び補助参加人の認否及び反論(特に記載しなければ、両者共通の認否、反論である。)

一  請求の原因一ないし三は認め、請求の原因四中、後記認める部分以外の主張は争う。本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法事由はない。

二  認定判断の誤り第1点について

1(一)  請求の原因四1冒頭記載のとおり本件審決が認定していることは認め、右認定が誤りである点は争う。

(二)  請求の原因四1(一)中、第一引用例記載のものが、ダブルヘッドコーナーシャーマシンであること、コーナーシャーマシンは、加工材の直角状のコーナーを切断するための機械であり、ダブルヘッドコーナーシャーマシンは、右の機能を有する本体の背面で、加工材の辺部を凹形に切断するものであること、本願考案の機械の前面部で加工材の直角形状となっているコーナーを切断する作業をすること、本願考案の機械の背面部で加工材の辺部を凹形に切断する作業をも行うことは認め(本願考案の機械の背面部では右の作業のみを行うものではない)、その余は争う。

(二) 請求の原因四1(二)、(三)は争う。

(三)  請求の原因四1(四)中、第一引用例には、第二引用例のように加工材の板面を円形に打ち抜く技術は開示されていないことは認め、その余は争う。

2  本願考案の上刃、下刃は、加工材の辺の中央部を凹形に切断するためのものと限定的に解釈する合理的理由はない。

第一に、本願明細書の考案の詳細な説明には、「加工材の端面V形切断」と対比する形式で「加工材の央部打ち抜き」と統一して使用され、他にこれと関連する記載はない。用語の一般的意味からは「央部」は中央部と解され、また、異なった二つの作業を行えるとの考案の詳細な説明の記載から二通りの用語を対比すると、加工部分は端面でない央部、加工形状はV形以外、加工内容は切断ではなく打ち抜きと解される。なお、原告主張のものを表現するならば、「辺の中央部凹形切断」ということになるが、本願明細書にはそのようには記載されていない。

第二に、本願考案図面の第4図に下刃のヘッドに近い部分にすきまがあるように図示されていることから辺部を凹形に切断するものが示唆されているものと解されるが、他方図示のものが実施例であることは本願明細書の考案の詳細な説明に明記されている。

第三に、本願明細書の実用新案登録請求の範囲の欄の記載からは、プレス機構の加工部分及び加工形状が限定されない、上刃と下刃のユニットとして明確である。

第四に、本願出願時の技術水準からみると、上刃と下刃を用いるプレス機構とは、パンチングを含む広い意味のプレスによる剪断機構と解される。なお、ダブルヘッドコーナーシャーマシンがコーナーを切断すると同時に本体の背面で辺面を種々の形状に切断するためのものとして定着していたことは争わない。本願考案は、この定着していた用語を用いていないのであるから、ダブルヘッドコーナーシャーマシンと全く同じものではないものと解される。

右第一ないし第四を勘案すると、本願明細書の考案の詳細な説明の欄及び図面には上刃と下刃の加工部分、加工形状及び加工内容に関して種々の実施例が開示されているものと解され、実用新案登録請求の範囲の記載も明確であるので、本願考案の上刃と下刃を特定の実施例に基づき限定的に解釈することはできない。

即ち、本願考案の背面部のカッターは「央部打ち抜き」をすることが明示され、央部とは加工材の中央部分と解されるが、本願考案の背面部のカッターが加工材の中央部分のみしか加工できないと限定する理由はないから、加工材のコーナー部分、辺部、中央部分のいずれも加工できると考えられ、本願考案の背面カッターは、ノッチングカッターとか、パンチングカッターとかに限定されない極めて広い範囲のカッターを概念として包含している。

したがって、本願考案の「上刃」「下刃」は、本件審決の要旨認定のとおり、コーナーシャーマシンに付設されたプレス機構の「上刃」「下刃」である。

3  これに対し、第二引用例記載のものはパンチングプレスであるので、プレス機構であることは明らかであり、パンチとダイは加工材を剪断切断するための前端部に略直角のエッジを有する工具であり、切断用のエッジを有する工具は一般的に「刃」と称されるので、パンチとダイも刃といえる。そして、加工材の上部と下部に設けられていることから、上刃と下刃といえる。

したがって、第二引用例記載のパンチとダイは、それぞれ本願考案の上刃と下刃に相当し、また、パンチとダイを上腕部材と下腕部材でユニット化したパンチングセットは本願考案の上刃と下刃のユニットに相当する。

第二引用例記載の特許の出願当時からパンチングプレスは、パンチング(中央部分の穴明け)だけでなく、ノッチング(辺の切り欠き)、ニブリング(かじり加工)にも使用されることが技術常識とされていた。そのことは丙第六号証、丙第七号証からも明らかである。原告は、第二引用例記載のものが穴明け専用機であると主張するが、一般にパンチングプレスは穴明けに使用することが多いというだけで、パンチングという切断方法しかできないというものではない。

そして、第二引用例記載のものにおいても、剪断装置である限り、偏荷重の存在は予定されており、第二引用例記載のものにも偏荷重に耐え得るよう、偏荷重が存在しても上刃と下刃がかじり合わないように、上刃と下刃はその位置を固定されており、上刃と下刃を支持する構造に、ある程度の強度が必ず持たせてある。したがって、原告主張の偏荷重に耐え得る構造を有しているか否かは程度問題にすぎない。

更に、第二引用例記載のパンチングセットは、ボルスタの案内溝に着脱自在に設けられているので、第二引用例には、「テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置すること」が記載されているものと解釈することができる。

よって、本件審決の認定判断に誤りはない。

三  認定判断の誤り第2点について

1  請求の原因四2冒頭の事実は争う。

請求の原因四2(一)、(二)は争う。

請求の原因四2(三)中、機械の正面でV形切断を行い背面で凹形切断を行う、いわゆるダブルヘッドコーナーシャーマシンにおいては、第一引用例のように上刃はエッジノッチ用カッターとしてワークヘッドに取り付けられ、下刃は下型カッターとしてテーブルに取り付けられているため、上刃と下刃が切断にあたって正しく噛み合うよう上刃と下刃の設置位置を正確に調整しなくてはならず、これをクリアランスの調整ということは認め、その余は争う。

請求の原因四2(四)は争う。

請求の原因四2(五)中、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「上刃8と下刃6をユニットとして着脱可能に設置」と記載されていることは認め、その余は争う。

2  本願考案の上刃と下刃のユニットを原告の主張のように考案の詳細な説明の欄に記載されている一実施例を加味して解釈する理由はなく、そのような前提又は解釈を前提とする原告の主張は失当である。

本件審決は、第一引用例記載のものに第二引用例記載のものを転用して本願考案を構成することに当業者が格別の創意を要しないと判断しているのである。

即ち、プレス装置の面からみると、金型の交換によりコーナーシャーマシンとしてもパンチングプレスとしても一般的に使用可能であるとされている。例えば、甲第五号証に記載の油圧式コーナーシャーにはオプションとしてパンチングがあり、これを取り付けるとパンチング加工が行えると記載されている。また、機械メーカーの面からみると、前記のような多機能機を除いても、専用機としてのコーナーシャーマシンとパンチングプレスの両方を製造しているメーカーが多い。このようなことから当業者はコーナーシャーマシンとパンチングプレスの両方の知識を有している。

したがって、その軌を一にすることによって共通する技術的課題を有し転用可能な第一引用例及び第二引用例記載のものを、両方の知識を有する当業者が転用することに格別の創意は要しない。

また、前記二2のとおり、本願考案の背面カッターは、ノッチングカッターとか、パンチングカッターとかに限定されない極めて広い範囲のカッターを概念として包含しているから、本願考案は背面に第二引用例記載のパンチングセットをそのまま併設したコーナーシャーマシンを含むこととなり、本願考案は、第一引用例及び第二引用例の記載からきわめて容易に考案をすることができたものを含んでいる。

3  機械の種類・構造が異なっていても、共通する技術的課題があれば、それを解決するための技術思想は転用可能である。第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとはプレスによる剪断装置という概念では同じであり、このことから両者とも金型(コーナーシャーマシン用の刃並びにパンチングプレス用のパンチ及びダイの上位概念)の着脱及びクリアランスの調整の必要があること、剪断加工の際にでる切屑を排出する必要があること等の共通する技術的課題を有している。したがって、この共通する技術的課題を解決するための技術思想は転用可能である。

第一引用例記載のものに第二引用例記載のものを転用することが可能であるとした本件審決の認定判断に誤りはない。

4  仮に、第二引用例に記載されたパンチ、ダイ、パンチングセットは、本願考案の上刃、下刃、上刃と下刃のユニットに相当せず、第二引用例には、「テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置すること」が記載されているものと解釈することができないとしても、第二引用例のボルスタの案内溝にパンチとダイを配置したパンチングセットを着脱自在に設けるという記載から、ボルスタの案内溝に上下の金型(コーナーシャーマシン用の刃並びにパンチングプレス用のパンチ及びダイの上位概念)をユニットとして着脱可能に設置するという技術思想が開示ないし示唆され、この技術思想は第一引用例記載のものに転用可能である。

5(補助参加人の主張)

原告は、本願考案と第二引用例記載のものは偏荷重を考慮したものか否かの点では全く別の考案であるから、転用することはできない旨主張するが、本願考案は、そもそも偏荷重の調整をその目的、構成、効果としているものではなく、剪断装置の利用形態の拡充、改良を目的、構成、効果としたものであり、偏荷重の存否の問題は転用の可否を決する点について重大な要素とはならない。原告の主張は、本願考案の目的、構成、効果とも関係がなく、また剪断装置として本質的に重要でない点を理由として転用ができないとするもので理由がない。

四  認定判断の誤り第3点について

1  請求の原因四3中、本願考案は、上刃と下刃がユニットとして一体的に組み合わされ、刃台取付溝内において着脱自在に取り付けられていることから、第一に、加工材の切断寸法に応じた刃物の取り換え作業が、ユニットを取り出すことにより簡単にでき、第二に、上刃と下刃がユニットとして形成されているため、前記のとおり上刃と下刃のクリアランスの調整が全く不要となり、作業能率が飛躍的に向上され、第三に、上刃と下刃のユニットはテーブルより分離されているので、ユニット自体が軽量化され手作業でも付け替えが可能となるという特段の効果を奏するものであることは認め、その余は争う。

2  原告が主張する第一の効果は、第二引用例3欄一五行から二三行までに記載されているパンチ装置とダイの交換がパンチングセットを引き出して容易に行うことができる旨の効果と同等のものであり、転用により予測できる効果である。

また、第二引用例4欄四行から五行までには「自動的にラム装置とパンチおよびダイの軸芯が整合し」と記載され、この「パンチとダイの軸芯が整合する」とは正しく噛み合うことであり、「自動的に」とはそのための調整が必要ないとの意味と解される。したがって、原告主張の第二の効果である上刃と下刃のクリアランスの調整が不要で、作業能率が向上するということと同等であり、これも転用により予測できる効果である。

更に、原告主張の第三の効果については、第二引用例に記載のものもパンチングセットはボルスタと分離されており、また第二引用例の2欄三七行から3欄二行までに、手動でパンチングセットを引き出せる旨の記載があるので、両者間に格別の差異はなく、これまた転用により予測できる効果である。

よって、本件審決に原告主張の誤りはない。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願考案の要旨)、同三(本件審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二  本願考案について

成立について当事者間に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書及び本願図面には、本願考案の目的、構成、効果について、次のような記載があることが認められる。

1  本願考案の目的

本願考案は、コーナーシャーマシンの上刃を取付けてあるヘッドの背面にラムを突設すると共に、該ラムの下方に位置させて上刃と下刃をユニットにしたプレス機構を付設したことを特徴とし、コーナーシャーによる板金等加工材の端面V形切断と、プレス機構による加工材の央部打ち抜きという異なった二つの作業を単一の機械で同時に行えるようにすることを目的とする(甲第二号証1欄一二行から一九行まで)。

2  本願考案の構成等

(一)  請求の原因二(本願考案の要旨)のとおりの実用新案登録請求の範囲。

(二)  この種コーナーシャーマシンは・・・(中略)・・・本体の正面側と逆の向きにある背面Qは遊休スペースともいうべく、殆ど利用されていない部分である。そこで、本願考案では、本体の背面部を活用し、該背面部に手作業により取り替えができるユニット型のプレス機構を併設することにより、加工材の端面切断と央部打ち抜きという異なった二つの作業を同時に行えるようにしたことを特徴とする(甲第二号証1欄二〇行から2欄一四行まで)。

(三)  本願考案の実施例を第2図以下の図面につき説明すれば、・・・(中略)・・・下刃台5内に下刃6を収容する。また下刃台5の内方にはガイドピン7、7を植設してある。次に、上記下刃6に対応する上刃8は上刃台9に埋め込みの螺子9と上刃8側の螺子溝8とにより螺子止めされていて、上刃台9の内方に穿った案内溝9、9に上記ガイドピン7、7を連通せしめてある。そうして下刃台5の嵌入穴5と、上刃台9の嵌入穴9にリターンスプリング10を介在させて下刃6に対し、上刃8を押圧させた後、上刃8がリターンスプリング10の弾発力により上刃8を上方に復帰させる。また上刃台9の両側下面には、先端にストッパー11を取付けたクッションスプリング12がストッパー11の軸杆11'、11'に巻装されている(甲第二号証2欄一五行から3欄一九行まで)。

(四)  本判決別紙本願考案図面のとおりの図面。

3  本願考案の効果

(一)  本願考案によると、コーナーシャーマシンの本体背面にテーブル1を取付けて、このテーブル1の刃台取付溝2にプレス機構の上・下の刃を組み合わせてユニットとして設置し、しかもコーナーシャーマシンのヘッドの背面にラム3を突設させて、このラムでプレスの上刃を下方に押圧し、鈑金等加工材を打ち抜けるよう形成してあるから、一台又は単体のコーナーシャーマシンを用いて、その正面側で加工材の端面をV形に切断できると共に、背面側においては別の加工材の央部を打ち抜くことができ、これら異なった二つの作業を同時に行うことができ、コーナーシャーマシンの利用価値を倍加せしめるという実用上極めて有益な効果がある(甲第二号証4欄一一行から二四行まで)。

(二)  これまでコーナーシャーマシンと、プレス機械とが別々の機体に備わっていて、加工材の端面切断と、央部打ち抜きが個々の機械により行われていたものを、本願考案によると、コーナーシャーマシンの背面の遊休スペースを改造して活用し、単体の機械で同時に二つの異なった作業を行うことができるので、加工の作業性が著しく増大することはもとより、使用工場において機械の据付けスペースを半減することができる(甲第二号証4欄二五行から三四行まで)。

(三)  コーナーシャーマシンの上・下の刃による加工材の端面にV形切断と、ラムを上下動させて切断する加工材の央部打ち抜きとは常に同時に行うとは限らないので、本願考案では央部打ち抜きをしないときは、プレス側の上・下の刃8、6から成るユニットをテーブル1より取り除くことにより、コーナーシャーのみを使って加工材の端面切断のみを行うこともでき、この場合テーブル1は加工材を積み重ねるスペースにも利用できる(甲第二号証4欄三五行から四四行まで)。

(四)  本願考案は、単体の機械で加工材の端面V形切断と、央部打ち抜きを同時に行うことができるので、加工費のコストダウン及び動力費の節減等を達成することができ、合理化に資するところが著大である(甲第二号証5欄一行から五行まで)。

(五)  本願考案は、プレス機構側の上刃と下刃が一体的に組み合わされてユニットになっているため、加工材の切断寸法に応じて刃物の取り換えはワンタッチででき、その上ユニット交換時の刃物のクリアランス調整が不要となって作業能率を向上し、更にユニットとサブテーブルが分離しているから各々軽くなって手作業でも付け替えができる(甲第二号証5欄六行から6欄一行まで)。

三  認定判断の誤り第1点について

1  一般に「プレス」とは、材料に力を加えて、圧縮、曲げ、切断、絞りなどの加工をする機械の意味に用いる場合と、その作業内容の意味でプレス加工などという場合があることは当裁判所に顕著である(例えば、一九七〇年版「世界大百科事典19」平凡社一九六七年六月八日初版発行、六八六頁参照)。

また、成立について当事者間に争いのない丙第一〇号証(日本塑性加工学会編「プレス加工便覧」丸善株式会社昭和五〇年一〇月二五日発行、一頁ないし三頁、八九頁ないし九四頁、奥付け)によれば、プレス加工についての標準的な図書と見られる同書には、「プレス加工」とは、「往復圧縮動を主とするプレスなどの加工機械及び型工具を用いて、金属その他の材料の一部もしくは全域に永久変形を与え、成形、接合、分離及びきょう正などを行う加工方法である」旨の記載があることが認められる。

したがって、一般に「プレス機構」とは、「材料に力を加えて、圧縮、曲げ、切断、絞りなどの加工をする機械のしくみ」又は「金属その他の材料の一部もしくは全域に永久変形を与え、成形、接合、分雌及びきょう正などを行うプレス加工に用いられる、往復圧縮動を主とする加工機械及び型工具からなる機構」を指すものと認められる。

更に、前記丙第一〇号証によれば、プレス加工の類型の内、分離には、せん断による、切断、分断(パーチング)、打ち抜き(ブランキング)、穴明け(パンチング、ピヤシング)、切込み(ノッチング)、スリッティング、ふち取り(トリミング)、ふち仕上げ(シェービング)、ブローチ削り等の作業分類があること、この内、打ち抜きは板状の材料から必要な形状の製品を切り取る作業であり、穴明けは板状の材料に所要の穴を明ける作業であり、いずれもその切断輪郭は閉曲線であることが認められる。

他方、成立について当事者間に争いのない丙第一一号証(太田哲著「プレス加工の基礎知識」日刊工業新聞社、昭和五七年二月二五日発行、七八頁から七九頁まで)及び丙第一二号証(一九七〇年版「世界大百科事典19」平凡社、一九六七年六月七日初版発行、六八九頁から六九一頁まで)によれば、プレス加工の加工方法の内、せん断加工を更に、突き切り、せん断、打抜き、シェービングに分類し、打抜きの中に、打ち抜いたものを製品として使う「外径抜き」又は「外形抜き」(丙第一〇号証記載の「打ち抜き」に相当する。)と、打ち抜いてできる穴を目的とする「穴抜き」又は「穴あけ」(丙第一〇号証の「穴明け」に相当する。)を含める考え方のあることが認められる。

2  本願考案の本体背面に設けられているものについて、本願考案の要旨では、「上刃8及び下刃6をユニットとして着脱可能に設置するプレス機構」とされ、右プレス機構は、「ラム3の下降位置に穿った切屑落孔4上に」設置するものとされており、プレス機構によって分離された加工材の内、刃の内側のものが切屑として切屑落孔から下へ落ちることが示唆されているということができる。

また、前記二1及び3に認定のとおり、本願考案の本体背面に設けられているものの行う作業について、本願明細書の考案の詳細な説明の欄の本願考案の目的についての記載中には、「プレス機構による加工材の央部打ち抜き」との、本願考案の効果についての記載中においても、「鈑金等加工材を打ち抜ける」、「加工材の央部を打ち抜く」、「央部打ち抜き」等の用語が使用されている。

これらのことによれば、本願考案のプレス機構は、前記丙第一〇号証によるプレス加工中のせん断による加工の類型の内、切断、分断(パーチング)、スリッティング、ふち取り(トリミング)、ふち仕上げ(シェービング)、ブローチ削り等の作業を行うものでないことは明らかである。また、本願明細書の考案の詳細な説明の欄には、「鈑金等加工材を打ち抜ける」、「加工材の央部を打ち抜く」、「央部打ち抜き」等の用語が使用されているが、他方、本願考案の要旨には、プレス機構によって分離された加工材の内、刃の内側のものが切屑として切屑落孔から下へ落ちることが示唆されていることは前記のとおりであり、前記丙第一〇号証の分類でいう「打ち抜き」は、板状の材料から必要な形状の製品を切り取る作業であるから、丙第一〇号証の分類の「打ち抜き」も本願考案のプレス機構の行う作業とは認められない。

したがって、前記丙第一〇号証の分類の内、本願考案のプレス機構が行う作業は、穴明け(パンチング、ピヤシング)及び切込み(ノッチング)であると認められる(本願考案の本体背面に設けられたものが、少なくとも加工材の辺部を凹形に切断する(前記丙第一〇号証の分類の「切込み」に相当する。)ものである点は、当事者間に争いがない。)。

丙第一〇号証の分類の「穴明け」は、板状の材料に所要の穴を明ける作業であり、その切断輪郭は閉曲線であることは前記のとおりであり、また、丙第一〇号証の分類の「打ち抜き」及び「穴明け」を合わせて「打抜き」とする前記用法をも考慮すれば、本願明細書の「鈑金等加工材を打ち抜ける」、「加工材の央部を打ち抜く」、「央部打ち抜き」等の用語は、まさしく丙第一〇号証の「穴明け」に相当する作業をも含むものと認められる。

前記二2(三)認定のとおり、本願明細書には、本願考案におけるプレス機構により、丙第一〇号証の分類による「切り込み」を行う実施例が開示されているが、右実施例において、上刃と下刃のユニットを、前後左右の四方に刃があり、且つ、刃の奥行きを短くして本体寄りの端部を本体から離し、加工材の辺より中央部寄りに位置するように刃の形状、大きさ等を適切に調整されたユニットに換えることにより、加工材の辺に近い位置に、切断輪郭が閉じた線になる「穴明け」ができることは明らかである。

したがって、本願考案における「プレス機構」とは、丙第一〇号証の分類でいう「穴明け」及び「切込み」、即ち、本件における当事者等の用語でいえば「加工材の中央部分の穴明け」又は「加工材の辺部の凹形切断」並びにその双方を行うプレス機構を指すものと認められる。

原告主張のような、「加工材の辺部の凹形切断」を行うものとの限定があるものとは認められない。

3(一)  原告は、本願明細書の考案の詳細な説明の欄の記載を汲み取って解釈すれば、本願考案の上刃と下刃のユニットとは、「上刃8は平面方形として上刃台9に取付けてあり、該上刃8が下降して噛み合う下刃6は平面凹形をなしていて、内方一辺の刃面を開放させて下刃台5に設置してあり、上刃8が下刃6の三面の閉鎖されている刃面及び刃面の開放部に挿入されたとき加工材を切断又は打ち抜きする構造の切断器具」あるいは「下刃台に下刃を収容すると共に上刃台に上刃を螺子を用いて取付け、下刃台に植設せるガイドピンを上刃台の案内溝に連結せしめることにより上刃側と下刃側をユニットに形成した」との趣旨であり、考案の詳細な説明の欄の、「プレス機構による加工材の央部打ち抜き」との記載部分の、「央部」とは加工材の面の中央部ではなく、辺の中央部の意味であり、「打ち抜き」とは上刃をラムの押圧力で下刃に噛み合わせて加工材を凹形に切断することを意味しているものであり、本願考案の本体の背面の機械は、加工材の辺部を凹形に切断するための切断装置である旨主張する。

前記二認定の事実によれば、本願考案の本体の背面の機械の実施例として、原告主張のような構造で、加工材の辺部を凹形に切断するための切断装置が本願明細書及び本願図面に開示されていることが認められる。

しかしながら、右のような開示は実施例と明記されたものであり、本願明細書の実用新案登録請求の範囲の欄及び考案の詳細な説明の欄の内、本願考案自体の目的、効果について記載された個所には右のような構造、作用についての限定は全く認められず、本願考案における「プレス機構」の意味は、前記2のとおりであると認められる。原告の主張は、本願考案の実用新案登録請求の範囲を、特段の理由もなく実施例として開示されたものに限定して解釈するもので採用できない。

(二)  また、原告は、本願考案が、加工材の辺を凹形に切断するものである根拠の一つとして、本願考案の上刃8、下刃6について、考案の詳細な説明の欄と実用新案登録請求の範囲の欄の両方で、同じ符号を付し、同じ用語を用いていることを挙げ、これはいずれも同一の構成要件であることを特定している旨主張する。

しかし、実用新案登録請求の範囲を記載する際、図面中の符号を付す理由は、考案の内容の理解を迅速且つ容易にするための補助的手段として利用するということにあり、考案の詳細な説明の欄の実施例についての説明と同じ上刃8、下刃6等の用話、符号が使用されているからといって、本願考案の要旨となる構成要件を、その実施例として示された具体的構成にのみ限定して解釈すべきものではない。

(三)  原告は、本件審決は、本願考案は第一引用例記載のものと同じく加工材の辺を凹形に切断する機械であると認定しているのであり、本願考案の上刃と下刃は加工材の辺ばかりでなく面の中央部をも切断する旨の被告の主張は、本件審決の認定と矛盾しており、且つ、本願考案がダブルヘッドコーナーシャーマシンであること及び本願考案の本体背面における上刃と下刃が加工材の辺以外の板面を切断する技術が開示されていないこと等を看過したものである旨主張する。

しかし、本件審決は、本願考案と第一引用例記載のものとを対比して、本体背面に着脱可能な上刃と下刃とを有するプレス機構を付設したコーナーャーマシンである点を他の一致点と共に一致点と認定しているのであり、本体背面に設けられたものが加工材の辺を凹形に切断する機械である点を一致点としているものでないことは、当事者間に争いのない請求の原因三(本件審決の理由の要点)3から明らかである。

また、第一引用例記載のものがダブルヘッドコーナーシャーマシンであること、コーナーシャーマシンは、加工材の直角状のコーナーを切断するための機械であること及びダブルヘッドコーナーシャーマシンは、右の機能を有する本体の背面で、加工材の辺部を凹形に切断するものであることは当事者間に争いがない。

しかし、本願明細書には、本願考案がダブルヘッドコーナーシャーマシンである旨の記載はなく、他に本願考案がダブルヘッドコーナーシャーマシンであることを認めるに足りる証拠はない。更に、本願考案の本体背面における二刃と下刃が加工材の辺以外の板面を切断するための具体的構成が実施例として本願明細書に開示されていないことは原告主張のとおりであるが、上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置するプレス機構である構成は本願明細書に明示されており、その目的、効果の記載、前記のようなプレス加工についての用語の一般的意味に、加工材の辺部を凹形に切断するものについてではあるが、上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置する具体的構成が実施例として示されていることを合わせ考えれば、本願考案の本体背面における上刃と下刃が加工材の辺以外の板面を切断する技術も本願明細書に開示されているものということができる。

したがって、原告の前記主張は採用できない。

4  第二引用例には、ボルスタの案内溝にパンチとダイを配置したパンチングセットを着脱自在に設けたパンチングプレスが記載され、またその第5図にはラム装置と同芯位置に嵌挿されたリングの中心孔と同心にボルスタヘ孔を設けたことが図示されている旨の本件審決の認定判断は原告の認めるところである。

右事実及び成立について当事者間に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、第二引用例記載のものは、前記丙第一〇号証記載の分類による穴明け(パンチング)を行うプレス機構を備えており、「パンチングセット」は、上腕部材と下腕部材によってパンチとダイをユニット化したものと認められる。

他方、本願考案における「プレス機構」が、丙第一〇号証の分類でいう「穴明け」又は「切込み」、即ち、本件における当事者等の用語でいえば「加工材の中央部分の穴明け」若しくは「加工材の辺部の凹形切断」又はその双方を行うプレス機構を指すものと認められ、原告主張のように、「加工材の辺部の凹形切断」を行うものとの限定があるとは認められないことは前記2のとおりであるから、本願考案は第二引用例と同質の穴明けを行うプレス機構を備えているものと認められる。

そして、第二引用例に記載された「パンチ」、「ダイ」はパンチングプレスにおける打ち抜き用の刃であり、機体の上と下に位置しているから上刃、下刃と呼んでよいものであり、「パンチングセット」は上腕部材と下腕部材によってパンチとダイをユニット化したものであるから、それぞれ、本願考案における「上刃」、「下刃」及び「上刃と下刃のユニット」に相当すると認められる。

したがって、第二引用例に「テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置する」ことが記載されているとの本件審決の認定に誤りはない。

第二引用例記載のものが本願考案のプレス機構と同質の機械ではないことを前提に、第二引用例に記載された「パンチ」、「ダイ」と本願考案の「上刃」、「下刃」とはその構造が全く異なり、対応させて考えることはできない旨の原告の主張は理由がない。

5  第一引用例記載のものがダブルヘッドコーナーシャーマシンであり、機械の背面部において加工材の辺部を凹形に切断するものであることは前記3(三)のとおりであり、この背面部の作業が、前記丙第一〇号証の分類の「切り込み」に当たることは明らかである。また、第二引用例記載のものはパンチングプレスであって、丙第一〇号証の分類の「穴明け」に用いられるものであることは前記のとおりである。

したがって、両者はいずれもプレス機構によって上刃を下刃に向けて下降させ、上刃と下刃によって加工材を剪断する剪断装置であるという点で一致しているから、第一引用例と第二引用例記載のものはプレスによる剪断装置としてその軌を一にしているという本件審決の認定判断は正当である。

原告は、第一引用例記載のダブルヘッドコーナーシャーマシンの背面部において加工材の辺部を凹形に切断するものと第二引用例記載の穴明けに用いるパンチングプレスは構造が全く異なり、両者は軌を一にするものとは言えないと主張する。

なるほど、第一引用例記載の背面部のものと第二引用例記載のものは具体的な機械の種類、構造において相違するけれども、両者はいずれもプレス機構によって上刃を下刃に向けて下降させ、上刃と下刃によって加工材を剪断する剪断装置であるという点で同一の技術分野に属するのであり、機械の本質的機能に差異はなく、プレスによる剪断装置としてその軌を一にしているという本件審決の認定判断に、原告主張の誤りはない。

四  認定判断の誤り第2点について

1  第二引用例に「テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置する」ということが記載されていること、第二引用例記載のものが本願考案のプレス機構と同質の機械であることは前記三4のとおりである。

また、第一引用例記載の背面部のものと第二引用例記載のものは具体的な機械の種類、構造において相違するけれども、両者はプレスによる剪断装置としてその軌を一にしていることは前記三5のとおりである。

したがって、第二引用例に記載された、テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置するという技術思想を、第一引用例記載の背面部のものに転用することに格別の創意を要するとは認められない旨の本件審決に原告主張の誤りはない。

2  原告は、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとは全く機械の種類、構造が異なっているのであるから、第二引用例記載のものを第一引用例記載のものに転用することは不可能であると主張する。

しかし、二つの機械が同一の技術分野に属するものである以上、機械の種類は異なっても、双方に共通する技術課題について、一方のものに採用されている技術思想を他方の機械に転用すること、及び機械の種類の相違による構造の相違がある場合、その技術思想を転用先の機械に適用するに際して、その機械の構造に合わせるため何らかの設計変更が必要であればこれを行うことは当業者であれば当然できることであるから、第二引用例に記載された技術から抽出できる、テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置するという技術思想を第一引用例記載の背面部のものに転用することに格別の創意を要するとは認められない旨の本件審決に原告主張の誤りはない。

3  また、原告は、本願考案の「刃台取付溝内に上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置する」という技術は格別の創意を要するものである旨主張する。

しかし、原告が、右主張の前提とする、本願考案における上刃と下刃のユニットというのは「下刃台に下刃を収容すると共に上刃台に上刃を螺子を用いて取り付け、下刃台に植設せるガイドピンを上刃台の案内溝に連結せしめることにより、上刃側と下刃側をユニットに形成した」という意味であるとの特許請求の範囲に限定を加える解釈が認められないことは前記三2、3のとおりであるから、その解釈を前提とする主張は採用できない。

また、原告は、仮に、第一引用例記載のものに第二引用例記載のパンチングセットとテーブルの技術を転用できたとしても、転用技術から本願考案を完成するには、少なくとも請求の原因四2(一)(1)ないし(6)のような困難な課題を克服しなければならなかったものであると主張する。

しかしながら、右の課題の内、(1)は、本願考案のプレス機構が加工材を凹形に切断するためだけのものであるとの解釈に基づくものであり、この解釈が失当であることは、前記三に判断したとおりである。したがって、(1)についての原告の主張は採用できない。

次に、右の課題の内、(2)乃至(6)は、第二引用例記載のパンチングプレスの具体的構成をそのまま第一引用例記載のコーナーシャーマシンの背面部に転用して、本願明細書に記載された本願考案の一実施例を構成する場合の課題を主張するものであるが、本件審決は、第二引用例記載のパンチングセットをそのまま第一引用例記載のコーナーシャーマシンに転用して本願明細書記載の本願考案の一実施例を構成することの容易推考性を判断しているのではなく、第二引用例の記載から抽出できる、テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置するという技術思想を、第一引用例記載のものに転用して、本願考案の要旨に表現された技術思想に想到することの容易推考性を判断しているものであることは明らかであり、且つその技術思想を第一引用例記載のものに転用するに際して、その構造に合わせるため何らかの設計変更が必要であれば、これを行うことは当然であるから、これらの課題の困難を理由として、本願考案と第一引用例記載のものとの相違点に係る本願考案の構成に格別の創意を要するものということはできない。

よって、原告の主張は失当である。

五  認定判断の誤り第3点について

1  本願考案が、上刃と下刃がユニットとして一体的に組み合わされ、刃台取付溝内において着脱自在に取り付けられていることから、第一に、加工材の切断寸法に応じた刃物の取り換え作業が、ユニットを取り出すことにより簡単にでき、第二に、上刃と下刃がユニットとして形成されているため、前記のとおり上刃と下刃のクリアランスの調整が全く不要となり、作業能率が飛躍的に向上され、第三に、上刃と下刃のユニットはテーブルより分離されているので、ユニット自体が軽量化され手作業でも付け替えが可能となるという効果を奏するものであることは当事者間に争いがない。

2  しかし、前記甲第四号証によれば、第二引用例には、

(一)  「パンチ装置25及びダイ31を交換するときはパンチングセットCをパンチングプレスPの手前に引き出してパンチ装置25を上腕部材23の孔27より上方に向かって引き抜き、ダイ31を下方に押し出すことにより容易に離脱が行え、次に別のパンチ装置25及びダイ31を前述した要領で取り付け、再びパンチングセットCを案内溝11に沿わせて押し込めば前述と同様に自動的に軸芯が整合されるのである(3欄一五行から二三行まで)。」

(二)  「パンチングセットを案内溝に沿わせて押し込めば自動的にラム装置とパンチおよびダイの軸芯が整合し、かつダイはリングによって下方から支持されるもので、パンチとダイの着脱が極めて容易に行えかつ安全に、確実な作業が行える効果を奏する(4欄三行から八行まで)。」

(三)  「パンチングセットCの下腕部材29をボルスター5の案内溝11に嵌入させ、手動、空気圧、油圧、ねじ送り等の適宜手段によってパンチングセットCをパンチングプレスPの手前に引き出し(2欄三五行から3欄二行まで)、」との記載があることが認められる。

3  右2認定の記載によれば、第二引用例記載のものも、本願考案の奏する前記第一ないし第三の効果を奏することは明らかで、それらの効果は、いずれも第二引用例に記載されているものを第一引用例に記載されているものに適用した場合に当然に予測しうる効果であるということができる。したがって、本願考案と第一引用例記載のものとの相違点に係る本願考案の構成を採用したことによる効果も当業者が普通に予測しうる効果を越えるものではない旨の本件審決の判断に原告主張の誤りは認められない。

六  よって、その主張の点に違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)

別紙 本願考案図面

<省略>

別紙 第一引用例図面

<省略>

別紙 第二引用例図面

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例